大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山家庭裁判所 昭和45年(少)427号 決定

少年 U・K(昭二五・八・一生)

主文

少年を、この事件について、保護処分に付さない。

理由

一、非行事実

少年は、○立○○大学の教養部の学生であつて、同大学当局との全学大衆団交推進のために、教養部学生のストライキ闘争を主張していたものであるが、昭和四五年五月二〇日同教養部学生大会において、同年四月一日から続行されていた同部学生の無期限ストライキ解除が決定されたことから、ストライキの解除を積極的に推進していた同教養部学生Z・D(当二一年)、同K・J(当一九年)を追及しようと企て、少年においてZ・Nほか数名の同大学学生と共に、同月二七日午後〇時三五分ころ、富山市○○××××番地所在同大学教養部校舎三階三二七番教室前廊下において、上記K・J、Z・D両名を待伏せ、上記Z・Nにおいて、上記両名に対し「話があるから二一五番教室へ来い」と申し向け、取り囲み、上記両名が同教室内へ逃げ込むのを追つて上記教室へ入り、ここに少年は、その頃同教室内に来たストライキ推進派の学生約一〇名位と共に上記両名を取り囲んだうえ、ストライキ解除方の推進行為をしたことを、それぞれ詰問したあげく、K・J、Z・Dの顔面を手挙で交々殴打し身体を小突き、胸元をつかんでゆさぶり、壁際に押しつけ、更に嫌がり拒否する両名をそれぞれ数名と共に取り囲んだまま押し、かつ引張つて階下の二一五番教室内に連行し、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して上記両名に暴行を加えたものである。

二  適用罰条

暴力行為等処罰に関する法律第一条

三  保護処分に付さない事由

(1)  本件非行の動機

イ  本事件は、○○大学の学内紛争を背景とし、闘争方針をめぐり、全学共闘会議(全共闘、反日共系)と、これに対立する民主青年同盟(民青、日共系)との間に起きた意見、感情の嵩りから、全共闘に属する学生が、民青に属する学生に対し、集団で暴行を加えたもので、

ロ  少年は、昭和四四年四月既に学内紛争中の○○大学に入学したもので、当初は、学園紛争に対して傍観者であつたところ、昭和四五年三月ころより全共闘に所属し、積極的に行動を始めるに至り

ハ  昭和四五年四月一日より自衛官の入学拒否と、文部省への学園紛争報告書提出の責任追及を主眼として、全学大衆団交要求の推進のためと称し、○○大学教養学部が無期限ストライキに突入していたものであるところ、同年五月二〇日同学部学生大会において、同ストライキ解除が決定されたところ、

ニ  同ストライキ解除を積極的に推進したのは、民青系の同学部学生Z・D、同K・Jであるとし、その責任追及として両名を詰問の上、本件の集団暴行を加えたものである。

(2)  処遇

少年は、本件暴行非行により、昭和四五年六月一三日逮捕され、引続いて勾留状が発せられて、富山警察署および富山刑務所に留置せられて取調べを受け、同年六月二九日身柄づきで家庭裁判所に事件送致がなされるに至つたもので、家庭裁判所に送致されると同時に富山少年鑑別所に身柄を移し、同年七月一七日の審判期日において、試験観察処分の言渡を受けて、同日釈放されるに至つたものである。富山少年鑑別所の鑑別結果によると、少年は収容期間の経過と共に次第に冷静さを取戻し、自己のやつたことは全く軽挙妄動であつたと深く内省するようになつたこと、全共闘に所属していた期間も短く、本件犯行は単なるその場の雰囲気に支配されて付和雷同的に行つた思想的信念に基くものでないこと、知能はIQ一〇八の普通載上位にあるも、社会常識に乏しく、視野は狭く社会性においても、人格においても未熟さが残されているものの、著しく歪んだ見方や、ひねくれた考え方は認められず資質は概ね平常である。又少年は思想的書物を読んだ経験は殆んどなく、固い本は嫌いで、平素愛読している本は漫画雑誌「少年マガジン」で、少年鑑別所に収容されていた間も両親から「少年マガジン」二冊を差し入れてもらつて愛読して居り、ものの見方、考え方は、大学生としては極めて幼稚である。当裁判所は、七月一七日の審判期間において、以上の資質に鑑み、少年を家庭裁判所調査官の試験観察に付し、遵守事項として、

一 毎日日記をつけること。

二 犯罪につながる学生運動を行わないこと。

の二項目を定めて、当分の間見守ることとして、同日釈放した次第であるが、少年は自宅に帰つて後、次回の審判期日である七月二八日までの短い期間であるが、当裁判所の命令どおり毎日日記をつけ、日々反省の心境を書き綴つて、上記審判期日に持参出頭し、審判廷において「今後二度とかようなことはしない」旨を誓つて反省の態度を示すに至つた。

以上少年の事件後の生活態度も正常化しているのみならず、悔悟の情も極めて顕著であり、性格面の崩れもないところから、性格の矯正や生活面での指導監督の必要性は認められないし、少年の単純さ、幼稚さと共に社会的未熟さに基く本件犯行は、以上諸般の点から刑事処分に付し、罪責を追及するまでの必要性は認められない。

よつて、少年に対し、将来本件と同種またはこれに類する誤りを再び繰返さないこと、学生としての本分を自覚し、勉学に専念することを説諭したうえ、少年法第二三条二項に則り、主文のとおり保護処分に付さないこととした。

(裁判官 神野栄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例